エリアリノベーションの先進地 善光寺門前。歴史を重ねた表情豊かなまちの今を辿ります。
いま、善光寺の門前界隈は空き家リノベーションの動きが活発で、全国的にも注目を集めるエリアリノベーション先進地となっています。土地の高低差による表情豊かな街並みとなっている門前を、リノベーション店舗の見学も交えて探訪しました。
朝9時半に長野市中央通り沿いのセントラルスクエアで待ち合わせ。
この日のまちあるきは、約2.5キロ。ゆっくりと風景を見ながら歩きました。
1998年の長野オリンピック表彰式の会場となった場所で記念撮影。さあ、本日のまちあるきマップを持って、ここから出発です。
JR長野駅から善光寺に向かって緩やかな坂道が続く長野市街地には、東西に流れる水路が幾筋もあります。しかし、都市計画のなかで多くの水路が暗渠(地下に設けた水路)化され、水の流れを意識できない川となってしまいました。北八幡川という小川もまた、数十年前に多くの部分で暗渠化されたひとつ。開渠から暗渠へと切り替わる場所に残された橋の高欄が不思議な感覚を抱かせます。
善光寺の門前町は度重なる火災から、いかに善光寺を守るかが大きな課題でした。明治に入り、各家の一間下屋に石積みの大きな水路を設け、いざという時にはそこに畳を差し入れ消火活動に用いたのでした。上下水道の普及に伴い次第に姿を消しましたが、いまでも門前の一部の家々にはまだ水路が残され、善光寺と門前町を火災から守るべく知恵を絞った当時の人々の様子を伺い知ることが出来るようになっています。
全国的にも注目を集めるエリアリノベーション先進地の善光寺門前界隈。
建築に携わる私たちにとって空家の再生とその普及はとても大切なテーマです。今回はまちあるきの途中、門前で空家を再生して暮らしと仕事を楽しんでいらっしゃる方のお店にお邪魔して、これまでの経験談やまちへの思いを伺い、貴重なひと時を過ごしました。もちろん、建物の改修された様子などは建築を生業とする者として、みんな興味津々でした。
古地図や古写真片手にブラブラとまちを歩くのが大好きな僕。まち歩きの魅力って何ですか?と尋ねられた時、返す言葉としてよく使うのが冒頭のフレーズですが、そもそもまちを歩くことはそれ自体が誰にとっても日常生活の一部のようなもの。でも普段何気なく歩いているまちでも、ほんの少し意識と視点を変えるだけで、意外な発見や今まで感じたことのないまちの姿に気づかされることがたくさんあるのです。
まちを歩いていると目に飛び込んでくる様々なまちの姿=見える風景。そんな目の前に広がる見える風景から、歴史や文化、先人たちの暮らしといった隠れた風景=見えない風景が意識化されると、そこからまちの様子に関心を高めるきっかけや、それまで気づかなかった物語が芽生えたりもするのです。
僕は何年も前からNPOなどで現地案内人=まち歩きガイドの活動に取り組んでいますが、そこでいつも意識しているのが物語を紡ぎ出すこと。見える風景を手掛かりとして、そこに見えない風景を織り交ぜながら、ガイドブックやインターネットでは得られないオリジナルな物語を紡ぎ出していくことが、なにより大切なことと考えて活動しています。
また当たり前のことですが、風景には人工的なものだけではなく、自然が創り出した地形や地質といった、土地の記憶というものがあります。地域の歴史や文化、そこに土地の記憶を混ぜ合わせたなかから紡ぎ出されるまちの物語を感じることに加え、建築に携わる者としては様々な建物と触れ合うことで、まち歩きの魅力をより一層深く感じています。
そんなわけで、まち歩きの魅力をみんなで共有しようとサンプロのスタッフ有志で始めたのが「まちあるき部」のサークル活動です。参加メンバーはゆったり歩いて地域と接することで、知っているようで知らなかったまちの姿に新鮮な驚きと楽しさを見出しています。
家づくりは暮らしづくりであり、そして暮らしづくりは地域づくりに繋がります。その地域づくりで大切なのは、とにかくまちを自分自身の足で歩き、無垢な気持ちで触れてみること。その思いを大切に、でもあまり堅苦しく考えすぎず、見える風景・見えない風景に物語を感じつつ、これからも楽しみながらまちと触れ合ってゆきたいと思います。